顧問先の社長がウェビナーに参加する前に聞いてほしいこと

佐藤 麻衣
佐藤 麻衣 30代・ 税理士
先日、顧問先の居酒屋チェーンを経営している高橋社長から連絡がありました。「先生、マーケティングのウェビナーって受けたほうがいいですかね」という相談です。6月第1週だけで40件ものウェビナーが開催されていると知って、気になったようでした。

Web担当者Forumで紹介されていた6/1〜6/5のセミナーまとめを私も確認しました。SNS設計の話、ECサイトリニューアルの話、シニアマーケットの話など、テーマは幅広い。高橋社長のような飲食業の方が見ると、全部無料だし、どれも関係ありそうに見えてしまいます。

「とりあえず無料だから」が一番危ない



高橋社長のお店は都内に5店舗。従業員数は正社員とアルバイト合わせて80人ほどで、月商は全店合計で1,500万円前後です。日々の売上管理はfreeeで連携していて、数字の把握は私と一緒にかなり整備してきました。

それでも、マーケティングという言葉の前になると、高橋社長は「何から手をつければいいかわからない」と言います。だからウェビナーに飛びつきそうになる。気持ちはわかります。でも、ここには落とし穴があります。

無料ウェビナーは基本的に主催企業のリード獲得が目的です。内容は参考になることも多いですが、参加後には必ずセールスが来ます。「SNS担当になったら最初に整えるべき3つの設計」なんてタイトルを見ると、高橋社長はすぐ「うちにもSNS担当を置いたほうがいいですか?」と聞いてきます。

ウェビナーで得た情報が判断の起点になってしまうと、本来やるべき優先順位が崩れやすい。これが私が気にしていることです。

顧問先が学ぶなら「自社の数字が先」という話



ウェビナーを否定しているわけではありません。私自身、税務や会計のアップデートのために定期的にウェビナーを使っています。ただ、使い方の順番があると思っています。

高橋社長に伝えたのは、こういうことです。

  • 今月の客単価と来客数の変化を把握しているか
  • 5店舗のうち、どの店が利益を稼いでいるか整理できているか
  • 集客に使っているInstagramの反応率を数字で追っているか


この3つに答えられない状態でSNS設計のウェビナーを聞いても、抽象論を浴びるだけです。高橋社長は「確かに店ごとの粗利、ちゃんと見てないですね」と言っていました。

月次の試算表を一緒に読む中で、3号店と4号店の原価率が他店より4〜5ポイント高いことは前から見えていました。でもそこへの手を打たないまま、マーケティングでカバーしようとする動きになりがちです。数字の問題をマーケティングで解こうとすると、たいていうまくいきません。

「先生、これ使えますか?」に答える前にやること



高橋社長のような相談は、顧問先から月に3〜4件は届きます。クリニックを運営する院長先生からは「患者向けのメルマガ配信ツール、どう思いますか」という連絡が来たこともあります。建設業の中堅会社の専務からは「InstagramよりYouTubeのほうが受注につながるって聞いたんですが」という話もありました。

どの相談も入口は同じです。外から入ってきた情報に引っ張られている。それ自体は悪くないのですが、その前に自社の現状をどれだけ把握しているかによって、外部情報の使い方が全然変わってきます。

私が顧問税理士として関われる範囲は限られています。でも、数字から「今の優先事項はここですよ」と伝えることはできます。高橋社長には、まず3号店と4号店の仕入れ構造を見直す時間を作ってもらうよう提案しました。ウェビナーはその後でいい、と。

40件ものセミナーが1週間に開催される時代です。情報を選ぶ力より、自社の現状を把握する力のほうが先に来る。高橋社長が次の面談で「原価率の話、少し進みました」と言ってくれることを期待しています。

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